秋も大忙し
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 



日本というと一年を通じて四つの季節が巡る、
それはそれは情緒あふるる国…だった筈なのだが、
近年の日本の気象状態は、
破綻を来しているとしか言いようがないよなケースがあまりに多く。
次に訪れる季節の兆しと引きつ戻りつしつつ、
少しずつ少しずつ、
それこそ水の上へ落とした絵の具の顔料が
さあっと広がりぼやけてゆくような、
その端と端とが重なり合っての入れ替わってゆくような、
そういう微妙な、じりじりした移行こそが
情緒があって味わい深かったというに。
ここ何年かはというと、
列島の上で、うっかり濃いままボタボタボタッと
次の色、うっかり落としちゃったよ・やっべという感じでやって来て、
誤魔化すように下地へ強引にぬすくって
それで暈して見せて馴染ませんとしているかのようで。

 「特に夏から秋にかけての入れ替わりは
  すぱーんっていう音が聞こえそうなノリですものね。」

 「潔いというか威勢がいいというか。」

いやいや、一応は、
夏の終わりとされる八月の末から、
朝晩の気温も下がりの、虫の声も聞こえのしてたじゃないのと。
例年通りの情緒ある移り変わり、かすかな訪れの兆しをかいで、
異常な炎暑だったにもかかわらず、
やっぱり来るもんだねぇなんて浸ったじゃないのと
仰せの方々(むき)もあるやも知れぬが、

 「それってのは単に、
  コオロギや鈴虫たちが前の年に生み付けてた卵が、
  土の中で順当に孵ったってだけの話じゃない。」

 「………。(頷、頷)」

それらしい気候変化を嗅ぎ取ってというよりも、
一定の日数が経過したからってだけの話だっての、と
それこそすっぱりと斬って捨てちゃう彼女らこそは。
なかなか去らなんだ残暑のお陰様、
衣替えで濃色のに変わった
合服のセーラー服の蒸し暑さにうんざりしていたのが、
やっと相応の装いになってくれたと。
これでも人心地ついておいでの
某女学園が誇る、美少女・聖女の三華様がた。
何とかいいお天気だった三連休には体育祭が催され、
それぞれに大活躍なさった勇姿が、
他のお嬢様がたの記憶にも鮮やかなまでに新しい彼女ら、
今は楚々とした制服姿で何かしらの作業中。

 「はい、これはそっち。」

癖のない絹糸のような金絲もつややかに、
こめかみ辺りから掬った編み込みを
カチューシャのようにして後ろまで渡し、
残りの髪はさらりと下ろして流しておいでの。
美貌でも人望でも当学園を代表する聖女、
白百合様こと草野さんチの七郎次さんが、
軽快に捌いているのはハガキ大の応募用紙の山であり。

 「う〜ん、
  お二方ばかりに偏るかと見越してたんですがねぇ。」

三つの山に仕分けられてくそれを、
最初は書類用の平箱型ケースに投入していたものが、
すぐにもあふれたものだからと、
みかん箱サイズのダンボール箱にチェンジして、
間違いのないようにと取り分けている助手Aさん。
みかん色のサラサラヘアが自慢の電脳小町、
地味で素朴なメカマニアと見せて、実は大した巨乳でもある、
ひなげしさんこと林田平八さんのお言いようへ、

 「……上級生。」

かーらーのー 票が(紅ばら様、使い方間違ってます)
あなたに集中するのは自明の理でしょうよと。
ぼそりとした、この一言だけでそこを端的に言ってのけたは、
軽やかなくせっ毛なのが綿毛のようにけぶる金髪、
鋭利な美貌には ワイルドにもセクシーにも映えると
特に下級生たちから王子様的に人気を集めておいでの
三木さんチのヒサコさまこと、あ・間違えた、
紅ばら様こと久蔵お嬢様、という、
ゴージャスにしてブリリアント、ラグジュアリなお三人が。
年末の郵便局の年賀状の仕分けアルバイトよろしく、
たったか・さっさかと分類しているものこそは。

 「学園祭の演目への応募用紙ですよvv」
 「そうそう。」
 「〜〜〜。」
 「確かに多いですよね。全校生徒数以上なくないですか?」
 「だって、中には3人それぞれへって
  出してる子もいるって聞いてますしねぇ。」

あくまでも“応募”で、間違っても投票ではない。
生徒会選挙は夏休み明けに催されたし、
中等部では文化祭の“メイプルクィーン”という女王様を選んでいるが、
高等部のこちらでは五月祭りの女王様しか選ばれぬ。

 「新企画なんてもの、よくも企みましたよね。」
 「これヘイさん、そういう言い方は。」

放課後の空き教室をお借りしての仕分け作業を手掛けているのは、
ある意味で公正を期すために、当事者である三華たちのみであるとはいえ。
誰が“陣中見舞いです”とか言って入って来ても いけなかない環境下。
特に厳重に取り繕ってる顔だという訳じゃあないけれど、
それでもそれなり、波風が立たぬ程度の、
ある意味“たしなみ”として、優等生で通しておいでな彼女らなので。
あんまり蓮っ葉なお言いようはと七郎次が注意をし、
平八も“いっけな〜いvv”とばかり
てへと愛らしく微笑って見せる連携は、相変わらずに万全だ。

 「ま、面白そうな企画じゃありませんか♪」
 「そうですかねぇ。」
 「………?」
 「いや、久蔵殿はバレエの公演で慣れてらっしゃるから。」

金髪娘二人は さして異存もなさそうだというに、
ひなげしさんだけが、やや不服そう。

 「日頃から陰のフィクサーですものね、ヘイさんはvv」
 「あー、そんな言い方しますかね。」

ちょっとムキになったその拍子、
その手からすべり落ちたのを おっと拾い上げた紙面には、

 [ 林田さんの“魔法使いの弟子”希望。]

なんてフレーズが綴られてあり、
魔法で衣装を塗り替える
“3Dプロジェクションマッピング・シアター”なのが人気でもあるよう。

 「でも、それってお二人の演目にも使いますのに。」

久蔵殿には、姫を守る勇敢な騎士が立ち向かうデフォルメされたドラゴンとして、
白百合さんへは、
ゴージャスなフランス王朝のお姫様たちという装いに合わせてのこと、
華やかな宮廷の内装として、
ステージの壁へそれぞれ特殊な3D映像を映し出す予定だし、

 「シチさんの演目の方が、
  本当にドレスを着るのだから、楽しいんじゃないのかなぁ。」

 「でも、そのまま円舞曲を踊るんですよ?」

いくら、多数で一度に舞台へ上がっての代物でも、
そんな緊張することを大仰な衣装で“演じる”のは大変でしょう?と
はんなり微笑む七郎次が言うように、
何と、こちらの三人のお姉様がたと舞台に上がりませんかという企画が
どこからともなく沸いたらしくて。

 「断然多いのは、
  久蔵さんの騎士物語だと思ってたんですけれど。」

 「こうまで均等だなんて、
  ヘイさんにとっては、意外や意外、ですか?」

こちら様の学園祭で恒例となりつつあるのが、
3日間のうちの2日の午後の〆めに
野外ステージにて繰り広げられるガールズバンドの演奏、だったのだが。
様々な参加グループを講堂や中庭のマリア像周縁、
そして野外ステージへと割り振ったところが、

 『あら、今年はステージものが少ないのですね。』

吹奏楽部やコーラス部に演劇部、
その他 有志による様々な公演に、
英語研究部の朗読や、
著名な文化人様をお招きしての講演などと、
それなりのバラエティも豊かに、
ステージを使う演目も盛りだくさんな学園祭なのだが、
何かしらの意図があった訳でもなくのこと、
野外ステージを利用する予定がない時間帯というのが
ぽっかりと空いてしまったらしく。
ままそれなら休憩所として使っていただけばいいだけのことと、
例年だったらそう運んだものが、

 『ステージといえば…。』

お嬢様たちがそこから連想なさるものの中、
一番インパクトがあって、もう一度堪能したいというリクエストが多かったのが、
下級生バンドの助っ人として飛び入りした三華様がたの、
その飛び入りの場面でご披露されたミニドラマっぽい動画だったりし。
ステージ自体を収めたDVDは、寄付目的の基金集めにと販売されたけれど、
残念ながらそこにも収められておらずだった幻の代物。
公開されたのは、
主にはガールズバンドのお嬢さんたちによる寸劇の最後に、
正義の味方っぽく現れた謎の影という、
あんまり姿も映ってはない出来だったのだけれども。

 『ああ。あれは、尺が長くなっても何なので、』

一応は映像だけでドラマになってた、
三華のお姉様がたもそのお姿をたくさんご披露していたらしいという、
どこから洩れたか、
そんな添え書きまでついてこそりと評判が広まってしまっており。

 「いやまあ確かに、ふざけてそういう作りのを仕上げはしましたが。」

 ユッコちゃんたちにも見せてないのに どうして判ったんだろ。
 勘ですよ、勘。
 期待…。
 だったらいいのになぁですか?
 ああ、それもあるかもですね。

しょうがないなぁ、公開しましょうか?と、
平八が噂に追いついたそのときには、
もはや、話は次の段階へと進んでいたらしく。

 『ガールズバンドの皆様だけが 共演出来たなんて羨ましい。』
 『エキストラでもいいから、ご一緒したいですわよねvv』

そんなお声を誰がどう拾ったか、
お姉様たちとステージで握手という企画が既に始動していたから。
いつものおっとりしてた のんびりさんたちだったのは

 「どういうカモフラですかっ!」
 「ヘイさんヘイさん、ややこしい造語を作らない。」

とりあえず、ステージを使おうという趣旨に添う演目ということで、
だったら
今流行の3Dプロジェクションマッピング・シアターは いかがと、
相変わらず天才的な腕を振るったひなげしさんが、
細密なプログラムを3種も立ち上げた。
スタジオでの撮影ならともかく、結構広いステージを使う代物、
支度や裏方さんたちの仕事も考慮してのこと、
それぞれに2回ずつが限度とし。
出演してはない人へも
舞台を撮影したDVDを領布することへ了解するという条件下、
複数ずつ構えたヒロインやエキストラを募集したもの、
舞台別に仕分けした上で、厳正な抽選を行うこととなっていて。

 「……ねえ。ところでサ、ヘイさん。」
 「? 何ですか?」

あのね、こないだ見せてもらった完成版の映像なんだけどと、
七郎次がやや照れつつ言葉を紡げば、

 「…っ。」

久蔵もお顔を上げて、何か言いたげ。
というのも、

 「何ですよ、二人とも。」

宮廷で王妃様に会釈する覇王様の動画映像が勘兵衛殿に似ていることですか?
それとも、
騎士殿と対決するドラゴンを操る魔王が榊せんせえに似てることかなぁ?

 「…っ!///////」
 「あ〜っ! やっぱりわざとだなっ、あれっ///////」

こらヘイさんっと、
金髪娘さんたちが振り上げるゲンコも何のその、

 「このっくらいのお楽しみがなけりゃあ、
  あんな複雑なプログラム組むなんて出来ませんてvv」

 「それにしたって…。」
 「〜〜〜っ//////」

自分は何の悪戯もない画像なんでしょにと、
口元とがらせるお嬢さんたちだが、
まあまあ、ヘイさんにはヘイさんの鬱屈がある学園祭なんだし。
当日にあたろう11月の頭は、いいお天気になるといいですねと、
お部屋の一角に張られた、紅葉のコラージュも華やかなポスターの中、
青るりが赤い実をくわえ、小首を傾げて彼女らを見下ろしていた。





     〜Fine〜  13.10.22.


  *こちらのお嬢さんたちも
   毎年恒例の
(笑)お祭りの準備で忙しそうです。
   相変わらず
   鬼のようにPCにまつわることは何でもこなす
   凄腕のひなげしさんですが、
   いいのかなぁ、
   警視庁の警部補そっくりな人が出て来る動画を配布して。(う〜ん)

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

メルフォへのレスもこちらにvv


戻る